近年新しい慢性心不全治療薬として発売されたエンレスト。
2021年9月に長期処方が解禁され、10月には「高血圧症」の適応追加もされました。
現在までにたくさんの慢性心不全、高血圧症の方の治療に使われています。
初回投与時には必ずコメントが必要
そんな画期的な新薬エンレストの初回投与時にはレセプト(診療報酬明細書)にコメントが必要です。
「慢性心不全」、「高血圧症」どちらの病名で使うにしても、初回投与時にはコメントが必要。
どんなコメントを書くか
コメントの内容ですが、単純に
「現治療で効果不十分のためエンレストを投与」
「治療強化のためエンレストを追加(または切り替え)」
などが一例です。
以下、エンレストの基本的な情報と処方時の注意点をまとめてみました。
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ARNI
エンレストはARNI(アーニイ)という薬効分類名でも呼ばれています。ARNIとは、
A・・・angiotensin(アンジオテンシン)
R・・・receptor(レセプター(受容体))
N・・・neprilysin(ネプリライシン)
I・・・inhibitor(インヒビター(阻害薬))
の略で、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬のことです。
具体的にはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のバルサルタンとネプリライシン阻害薬のサクビトリルを1:1で共有結合させたのがエンレストです。
基本情報
薬剤名:エンレスト
一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物
製造販売会社:ノバルティスファーマ
薬価:エンレスト錠50mg 65.7円/錠
エンレスト錠100mg 115.2円/錠
エンレスト錠200mg 201.9円/錠
用法用量
慢性心不全
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2〜4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
高血圧症
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回200mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最大投与量は1回400mgを1日1回とする。
慢性心不全は1日2回。
高血圧症は1日1回。
処方時の注意点
エンレスト処方には、前提としてACEもしくはARBを使用中の患者さんである必要があります。
ですのでどちらも処方されていない患者さんでは、いったん両剤のどちらかを投与して、その後エンレストに切り替えるという流れになります。
本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
エンレスト添付文書効能または効果に関連する注意
慢性心不全で使う際の注意点
先ほどACEおよびARBの投与が前提とありましたが、エンレストは第一選択では使えません。(高血圧症も同様に第一選択では使えません)
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
エンレスト添付文書効能または効果
高血圧症で使う際の注意点
用法用量にもありますが、高血圧症は100mgと200mgのみの適応ですので50mgは使えません。
また基本的には200mgから開始ですが、患者さんの状態に応じて100mgからの投与開始も可能です。
本剤はサクビトリル及びバルサルタンに解離して作用する薬剤であるため、本邦のバルサルタンの承認用法及び用量での降圧効果、本剤の降圧効果を理解した上で、患者の状態、他の降圧薬による治療状況等を考慮し、本剤適用の可否を慎重に判断するとともに、既存治療の有無によらず1回100mgを1日1回からの開始も考慮すること。
エンレスト添付文書用法及び用量に関する注意
重要な基本的注意欄にに記載がありますが、
血管浮腫があらわれるおそれがあるため、本剤投与前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと。
エンレスト添付文書重要な基本的注意
つまりACE阻害薬を使っている患者さんから切り替える場合、ACE服用から36時間あけて投与する必要があります。これは慢性心不全で使う際も同様です。
慢性心不全・高血圧症ともに第一選択薬としは使えない。
ACEもしくはARBからの切り替えが条件
高血圧症で50mgは使えない。
高血圧症では100mgからの投与開始も可能
ACEからの切り替えは36時間あける(慢性心不全で使う際も同様)
エンレストのさらなる興味深い作用
「慢性心不全」と「高血圧」の2つの適応を持つエンレストですが、次のような発表もあります。
ノバルティスのLCZ696(エンレスト)、糖尿病を合併した左室駆出率の低下した心不全患者さんにおける血糖コントロール改善を新たな解析で示す。
・PARADIGM-HF試験の新たな事後解析により、糖尿病を合併したHFrEF患者さんにおいて、LCZ696(エンレスト)はHbA1c値(血糖コントロールの指標)を0.26%低下させたのに対し、ACE阻害薬のエナラプリルでは0.16%であったことが示された。
・エナラプリルと比較してLCZ696は、治験薬投与開始後の新たなインスリン治療を導入する率を29%低下させた。
・ HFrEF患者さんの約40%が糖尿病を合併しており、心血管系アウトカムが糖尿病合併のない患者さんよりも悪いことが報告されている。
・本結果は米国心臓病学会(ACC)の年次学術集会で発表され、Lancet Diabetes & Endocrinology 誌にも掲載された。
ノバルティス ファーマ株式会社 引用元(chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/viewer.html?pdfurl=https%3A%2F%2Fwww.novartis.co.jp%2Fsites%2Fwww.novartis.co.jp%2Ffiles%2Fpr20170418-1.pdf&clen=345519&chunk=true)
と発表されており、なんとHbA1c、糖尿病にも効果があるかもしれないという発表が2017年にノバルティスから出ています。
残念ながら「糖尿病」の適応はありませんので糖尿病患者さんへの投与はできませんが、今後のエンレストの適応追加が期待されます。
そして「慢性心不全」、「高血圧」、「糖尿病」に効くとなれば、まさに「夢の薬」といったような画期的な存在となりそうですね。
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