先日新たなアルツハイマー型認知症(AD)の薬がアメリカ(米食品医薬品局FDA)で迅速承認されました。それがアデュカヌマブ(ADUHELM™)(製品名:アデュヘルム)です。
今回のこのお薬、その最大の特徴は、今までのアルツハイマー型認知症の薬は病気の進行を遅らせるものしかありませんでした。ですがこのアデュカヌマブは病気そのものを治療できる可能性があるのです。
開発したのは、日本の製薬大手エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが共同開発。この2社の代表が今回のFDAでの承認を受けて次のように述べています。
バイオジェンCEO、ミシェル・ヴォナッソス
「この歴史的瞬間は、十年以上にわたる複雑なAD領域における画期的な研究の集大成です。このファースト・イン・クラスの薬剤が、ADと共に生きる方々の治療を変革し、今後、継続的な革新を起こすと確信しています。私たちの臨床試験に参加いただいた何千人ものAD患者様と介護者の皆様のご貢献、ならびに当社のサイエンティストや研究者の献身に心から感謝しております。私たちは、医療関係者やコミュニティと協力して、この新しい薬剤を患者様にお届けし、拡大するグローバルヘルスの危機に対処してまいります」
https://www.eisai.co.jp/news/2021/news202141.html
エーザイCEO、内藤晴夫
「ADの根本原因を突き止めるためのたゆまぬ追求を通じて、エーザイは、1980年代初頭よりAD治療薬の開発に取り組んできました。また、四半世紀以上にわたってAD当事者様に寄り添い、ニーズを理解することに努めてまいりました。ADUHELMの承認によって、AD治療の歴史に新たな1ページを開くことができたことを大変嬉しく思います。本承認により、グローバルヘルス、社会、そして、最も重要な当事者様とご家族の将来に大きな展望や希望をもたらす治療オプションを提供し、認知症エコシステムの進展に大きな一歩を踏み出すことが可能となります」
https://www.eisai.co.jp/news/2021/news202141.html
全世界が期待するこのアデュカヌマブとは。アルツハイマー型認知症と既存薬を交えて書いていきたいと思います。
アルツハイマー型認知症とは
まずアルツハイマー型認知症とは、「認知症」の病態のひとつで、認知症全体の4割以上をしめるといわれています。脳の萎縮により体験したことを忘れたり、新しいことを覚えることができなったりします。また日付や時間の感覚、場所、人物が誰なのかもわからなくなることもあります。
アルツハイマー型認知症の原因
この病気の原因は、脳でアミロイドβタンパクやタウタンパクなどのたんぱく質が異常にたまり、それにより脳細胞が損傷したり神経伝達物質が減少し、脳が委縮することによって引き起こされます。はじめに記憶を担う海馬が委縮し、徐々に脳全体に広がります。
既存のAD治療薬
現在までに上市されているアルツハイマー型認知症の薬は2種類の薬効があります。
1、コリンエステラーゼ阻害薬
コリンエステラーゼ阻害剤という部類の薬です。このお薬は神経伝達物質であるアセチルコリンの量を増やすことを目的とした薬です。アセチルコリンは副交感神経や運動神経に働き、血管拡張、心拍数低下、消化機能亢進、発汗などを促す働きをしたり、学習・記憶、睡眠などに深く関係しています。アルツハイマー型認知症の患者さんではアセチルコリンの働きが弱まっているということがわかっています。そしてアセチルコリンを活性化することで症状を緩和できるのではないかというところからこの薬が開発されました。アセチルコリンを増やすことで記憶障害などの症状を遅らせることができます。以下がその薬剤です。
アリセプト(ドネペジル塩酸塩)
アルツハイマー型認知症の薬として世界で初めて有効性が確認された薬です。コリンエステラーゼ阻害薬として最初に発売されたお薬。販売から年数もたっており国内外で広く使われています。レビー小体型認知症に対する効果も認められ2014年に適応を取得しています。
1日1回服用する経口薬です。錠剤、口腔内崩壊錠、細粒、ドライシロップ、ゼリーといろいろな剤形があるのも特徴です。
副作用としては吐き気や嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状があります。特に飲み初めに多い症状となっています。
イクセロンパッチ/リバスタッチパッチ(リバスチグミンパッチ)
こちらは貼付剤タイプのコリンエステラーゼ阻害剤です。1日1回、背部、上腕部、胸部のいずれかの場所に貼ります。経口薬が飲みづらい方または、介護者の方が飲ませるのが大変といった場合にメリットがあります。
副作用としては皮膚症状があります。貼付部位がかぶれたり、かゆくなったりすることがあります。
レミニール(ガランタミン臭化水素酸塩)
アリセプトと同じく経口のお薬です。このお薬はコリンエステラーゼ阻害作用に加えアロステリック増強作用も持ち合わせています。アロステリック増強作用により神経伝達物質の放出を促進し、認知症の症状緩和します。この2つの作用がこの薬の特徴です。
こちらはアリセプト同様経口薬となっており、服薬回数は1日2回となっています。錠剤、口腔内崩壊錠、内服液があります。
2、NMDA受容体拮抗薬
アルツハイマー型認知症がすすむと脳内の神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰になります。このグルタミン酸が脳内のNMDA受容体に過剰に作用し活性化させることで神経細胞や記憶が障害されます。このタイプの薬はこのNMDA受容体に作用し過剰な活性を抑制します。
薬は以下の1種類しかありません。
メマリー(メマンチン塩酸塩)
この薬は中等度から高度のアルツハイマー型認知症の進行抑制という適応を持っています。1日1回服用します。剤形は錠剤と口腔内崩壊錠、ドライシロップがあります。
またコリンエステラーゼ阻害剤と併用することも可能です。また特徴的なのは、興奮、怒りっぽい、攻撃的、徘徊などの周辺症状を軽減させる効果がある点です。
しかしながら上にあげた薬では病気の進行を遅らせるという効果や、症状を緩和するといったことしかできず、病気の根本を取り除くといった効果はないのが現状でした。
アデュカヌマブの作用
今回発明されたアデュカヌマブはそのような既存薬とは違い、病気そのものを治療できる可能性がある薬剤となっています。
現在まで発表されている情報は以下のとおりです。
作用
アデュカヌマブの作用ですが、アルツハイマー型認知症の原因となる蓄積したアミロイドβタンパクを減らすという作用を持っています。
試験では、アデュカヌマブは18ヶ月投与でアミロイドβプラークを59~71%減少させたという結果がでています。
アデュカヌマブが使用できる条件
アデュカヌマブを使用するにはアミロイドβタンパクの蓄積を確認する必要があります。確認するためには以下のいずれかの検査が必要となります。
- PET検査
- CSF(脳脊髄液)
- 検査血液検査
現状PET検査は国内では保険適用されていないので今後日本でアデュカヌマブが承認された際に何か対応があるかもしれません。また現時点では実際にアミロイドβをPETで検査する場合、1回20~30万円の自己負担が生じます。
用法用量
詳しい用法容量はまだわかっていませんが、4週間に1回(21日以上の間隔をあける)の点滴投与(静脈内)です。1回の点滴に1時間以上かけて点滴します。投与7回目まで漸増していき、その後維持容量で投与となります。
薬剤費(薬価)
薬剤費は年間で約613万円ほどになるといわれています。月50万円程度という計算になります。
副作用
脳内の一時的な浮腫が副作用。最も多い症状が頭痛で、他には錯乱、めまい、視覚障害、吐き気などがあります。またアデュカヌマブで治療を受けた方の少なくとも2%で報告され、かつプラセボ投与群よりも2%以上高い頻度で報告された副作用は、ARIA-E、頭痛、脳表ヘモジデリン沈着、ARIA-H関連表在性せん妄、転倒、下痢、錯乱、せん妄、精神状態の変化、見当識障害でした。
国内での発売は
日本では2020年の12月に承認申請がされています。2022年4月の薬価収載を予定してるそうです。
ですが高薬価な薬剤となるため処方できる患者さんの条件もかなり厳しいものになると予想されます。
現在日本国内のアルツハイマー型認知症の潜在患者数は100万人程度と推計されています。潜在患者さんの発症をこのアデュカヌマブで防ぐことができれば薬剤費以上の医療費の軽減、また家族、介護者の負担が見込まれます。
早期の承認が期待されているところです。
追加情報があれば更新していきます。
読んでいただきありがとうございました。
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