コロナウイルスがまだまだ猛威をふるう中、2020年5月7日に厚生労働省は新型コロナウイルス治療薬としてレムデシビルを特例で承認しました。
ではこのレムデシビルとはどんな薬なのでしょうか。
異例の早さで承認されたレムデシビル。
「レムデシビル」は一般名?薬の名前?
そもそも「レムデシビル」というのは一般名です。一般名というのは薬の有効成分の名前のことです。
私たちが薬を処方されたときに、薬のPTPシートに記載されている名称やお薬情報の紙に書かれている名称は、「販売名」です。
なので私たちの身近な薬の名称は「販売名」ということです。
そしてこのレムデシビルの「販売名」は、「ベクルリー点滴静注液100mg」および「ベクルリー静注用100mg」です。
販売名:ベクルリー点滴静注液 100mg、同静注用100mg
一般名:レムデシビル
この薬、元々はエボラ出血熱の治療薬として開発されたもの。他にもMERSウイルスやSARSウイルスなど複数のウイルスに広範な抗ウイルス活性が認められています。
そのことから新型コロナウイルス治療薬として特例で承認されました。
またアメリカでレムデシビルの緊急時使用許可が得られたことも承認の要因となっています。
特例承認とは。
特例承認されたとあるが、そもそも特例承認って何なのだろうか。
特例承認とは以下の条件を満たすことで特例的に製造販売承認を受けられるもの。
①疾病の蔓延防止などのために緊急に使用する必要がある。
②当該医薬品を使用する以外に適切な方法がない。
③日本と同様の医薬品の製造販売承認制度を導入する海外での販売が認められている。
今回のレムデシビルは3つの条件にあてはまったので通常の医薬品より早く製造販売承認を取得できたということです。
過去に特例承認を与えられた薬剤
レムデシビル以外で現在までに特例承認が与えられた薬剤というのが実は2つしかありません。
それが、
・アレパンリックス筋注(GSK社)
・乳濁細胞培養A型インフルエンザHA
ワクチンH1N1“ノバルティス“筋注用(ノバルティス社)
の2剤です。
この2剤は2009年から2010年に世界的に流行したA型インフルエンザ(H1N1)の予防ワクチン(輸入ワクチン)として特例承認されました。
そもそも薬が承認されるにはどのくらいの期間がかかるのだろうかというのが気になります。
通常の薬であれば承認申請をしてからおよそ1年ほどで製造販売承認を受けることができるそうです。
今回のレムデシビルは承認申請したのが5月4日で、承認されたのが5月7日。通常1年かかるところをわずか3日という、ものすごい早さで承認されたのです。
ギリアドサイエンシズ社とは
このレムデシビルを製造しているのが
ギリアド・サイエンシズという会社。1987年に設立されたアメリカの会社で日本法人は2012年に設立されました。
C型肝炎の治療薬が有名。
かのインフルエンザ治療薬タミフルもこのギリアド社が創薬したものなのだそうです。
レムデシビルの投与対象(新型コロナウイルスに対して)
投与対象は、原則として重症患者さんに限るとなっています。これはレムデシビルのこれまでの投与経験が、
①酸素飽和度94%以下
②ECMO導入患者
③侵襲的人工呼吸器管理が必要な患者
※酸素飽和度・・・血液中の赤血球ヘモグロビンに何%酸素が結合されているかを調べた値
のいずれかに当てはまる重症患者さんのみだったために、そのような縛りがついたようです。
また投与に際して適応患者さんを選定する適格基準が
①新型コロナウイルス感染症の陽性。
②酸素飽和度94%以下または酸素吸入している。
③入院中
④クレアチニンクリアランスが30mL/min超
⑤AST及びALTが基準値上限の5倍未満
※クレアチニンクリアランス・・・腎機能を測る検査値
そして除外基準が
①多臓器不全の症状を呈する患者
②継続的に昇圧在庫が必要な患者
③ALTレベルが基準値上限の5倍超
④クレアチニンクリアランス30mL/min未満又は透析患者
⑤妊婦
となっています。
用法用量は、1日1回の点滴静注で、投与期間は10日間。
ECMOが導入されていなかったり、侵襲的人工呼吸器管理の必要がない患者さんは5日間。症状の改善が認められなければ10日まで投与する。
投与により、急性腎機能障害や肝機能障害を引き起こす可能性があるので投与前、投与中に腎機能・肝機能検査を毎日実施することを厚生労働省は求めている。
レムデシビルの効果
さてそのレムデシビルの効果についてはどうなのだろうか。正直なところ現在治療薬候補としてあがっているいくつかの薬を見ても、著名な効果が出ているものはない状況ですがレムデシビルについては以下の報告があがっています。
米国立衛生研究所(NIH)が2月に開始した新型コロナウイルスの重傷・重篤患者1063人を対象に行った臨床試験(10か国)によると、平均回復期間がレムデシビル投与群で11日、プラセボ(偽薬)投与群で15日とレムデシビル投与群で4日短かった。死亡率においてはレムデシビル投与群で7%、プラセボ投与群で12%と投与群の方が低い結果とはなっているが有意差があるとまではいえず、死亡率はいずれにしても高い。
また「最も大きな効果が表れたのは人工呼吸器は装着していないが、酸素供給が必要な比較的重傷な患者だった」とNIHは発表しています。
追加データ
7月10日、米ギリアド・サイエンシズより、レムデシビルの新型コロナウイルスに対する追加の臨床研究データが発表されました。治験での312人分および通常治療を受けた818人分のデータを分析したものです。重症患者さんで14日目までに回復した割合が、レムデシビル群で74.4%だったのに対し、通常治療は59.0%だったと発表。14日時点の死亡率はレムデシビル群で7.6%、通常治療群で12.5%だった。(レムデシビルは5日間および10日間、それぞれ点滴注射した。)
アビガンとレムデシビルの違い。
レムデシビルと同じく、以前から新型コロナウイルスに効果があると目されているのがアビガン(一般名:ファビピラビル)。富士フイルム富山化学(株)が創薬した日本製の薬。
このアビガンはインフルエンザ治療薬として開発されたもの。
アビガンはコロナウイルスのようなRNAウイルスの増殖を抑える。ウイルスの複製を抑える。RNAポリメラーゼを特異的に阻害することでウイルスの複製を阻止します。
レムデシビルはRNAポリメラーゼを混乱させる。ウイルスが複製される際に正しく塩基配列に修正されるのを阻害して、複製を阻害します。
似た作用であるが、微妙に違うようです。
作用部位は同じで、作用の仕方が違うといったところでしょうか。
※RNAポリメラーゼ=RNAを合成する酵素。
レムデシビルは無償提供される
またギリアド・サイエンシズ社はレムデシビルを全世界に無償提供するとしています。
日本でもすでに供給体制は整っているが、使用はまだないようです。
東京医科歯科大学医学部附属病院でも重症患者10人分を発注し、5月11日に院内に到着したそうですが、その時点で重症患者がおらず使用機会はまだないそうです。
新型コロナウイルス治療薬は候補薬が少しずつ増えてはきていますが、どれも劇的に、確実に、効いているというものがまだありません。
このレムデシビルに関しても効果は限定的なようだ。
いずれにしても確実にウイルスをたたくことのできる薬やワクチンの早急な開発や発見が待たれる。
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