コロナ感染症治療薬「モルヌピラビル」(販売名:ラゲブリオカプセル)を処方できる患者さんとは。処方には登録が必要。

医療・薬・健康

新型コロナウイルスに対する新しい治療薬が開発されました。

それが「モルヌピラビル」(販売名:ラゲブリオカプセル200mg)です。開発したのはアメリカのメルク社(日本法人はMSD株式会社)。

この薬は軽症者向けであり、しかも飲み薬というところが特徴です。

今まで治療薬として使われているレムデシビルや抗体カクテル療法(ロナプリーブ:カシリビマブ+イムデビマブ)はどちらも点滴の治療薬ですので飲み薬であれば医師や看護師さんがいなくても服用できるため非常に利便性が高いといえます。

開発

元々はエモリー大学(アメリカの私立大学、ジョージア州ディカーブ郡)のベンチャー企業がインフルエンザの治療薬として開発したもの。

それをRidgeback社が買収しMerck社と業務提携し開発をすすめています。

作用機序

RNAポリメラーゼ阻害剤。これはアビガンと同じ作用機序で、ウイルスがRNAを複製する際にエラーを生じさせることでウイルの増殖を防ぎます。

効果

第3相試験の中間結果で、

モルヌピラビルを投与された患者のうち、入院または死亡したのは7.3%(385例中28例)。プラセボ投与患者で14.1%(377例中53例)。比較してモルヌピラビル投与患者では、入院または死亡のリスクを50%減少させた。(モルヌピラビルでの死亡例は0例、プラセボで8例だった)

この試験の対象は、「発症5日以内の軽症または中等症患者」かつ「少なくとも1つ以上の重症化リスクを持つ」方となっています。

副作用

副作用はモルヌピラビル群とプラセボ群でほぼ差がなかったとされています。

効能又は効果

SARs-Cov-2による感染症

用法用量

18歳以上の患者には、1回800mg(4カプセル)を1日2回、5日間経口投与。1回の服薬タイミングは12時間おき。

また「用法及び用量に関連する注意」としては、症状が発言してから速やかに投与すること。とあります。臨床試験において症状発言から6日目以降に投与を開始した患者の有効性を裏付けるデータはないそうです。

アメリカの新聞によると治療費は5日間投与で約700ドル(7万7000円)になるといいます。この高額な治療費は今後課題になりそうです。

処方の際の条件

ラゲブリオを処方するには医療機関が「ラゲブリオ登録センター」へ対応機関登録をする必要があります。

ラゲブリオ登録センターはこちら。

処方できる患者さんとは

ラゲブリオはコロナウイルスに感染した人すべてに処方できるわけではありません。まず用法用量で18歳以上とありますので、小児への投与はできません。また添付文書には以下の記載があります。

効能又は効果に関連する注意

臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること。また、本剤の投与対象については最新のガイドラインも参考にすること。[17.1.1 参照]

重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は確立していない。

ラゲブリオ添付文書より

重症化リスク因子を有する患者さんのみに処方できます。この「重症化リスク因子を有する・・・」の重症化リスクとは、まず日本感染症学会の「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第13版」(2022年2月10 日)に記載されている以下の患者さんがそれにあたると考えられます。

  • 61歳以上
  • 活動性の癌(免疫抑制又は高い死亡率を伴わない癌は除く)
  • 慢性腎臓病
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 肥満(BMI 30kg/m2以上)
  • 重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)
  • 糖尿病
  • ダウン症
  • 脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等)
  • コントロール不良のHIV感染症及びAIDS#
  • 肝硬変等の重度の肝臓疾患
  • 臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後

以上が重症化リスク因子となります。また他にも承認審査の際の試験(MOVe-OUT(002)試験)における組み入れ基準、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第6.2版」、既に承認を受けているイギリスで、臨床試験(PANORAMIC試験)の組み入れ基準において例示されている重症化リスク因子がそれにあたるそうです。詳しくは以下になります。

MOVe-OUT(002)試験の組み入れ基準における重症化リスク因子

  • 61 歳以上
  • 活動性のがん(免疫抑制又は高い死亡率を伴わないがんは除く)
  • 慢性腎臓病
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 肥満(BMI 30 kg/m2 以上)
  • 重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症)
  • 糖尿病

「診療の手引き」(第 6.2版)における重症化リスク因子

  • 65 歳以上の高齢者
  • 悪性腫瘍
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 慢性腎臓病
  • 2型糖尿病
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 肥満(BMI 30 以上)
  • 喫煙
  • 固形臓器移植後の免疫不全

イギリスでのPANORAMIC試験の組み入れ基準における重症化リスク因子

  • 慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、喘息を含み、少なくとも毎日予防薬や緩和薬を使用する必要がある。)
  • 慢性的な心臓または血管の病気
  • 慢性腎臓病
  • 慢性的な肝疾患
  • 慢性神経疾患(認知症、脳卒中、てんかんを含む)
  • 重度の学習障害
  • ダウン症
  • 糖尿病(I型またはII型)
  • 免疫抑制:一次性(例:遺伝子変異による遺伝性免疫疾患、通常は出生時に発症し小児期に診断される)または疾患や治療による二次性(例:鎌状赤血球、HIV、癌、化学療法)
  • 固形臓器、骨髄、幹細胞の移植後
  • 病的な肥満(BMI>35)
  • 重度の精神疾患
  • ケアホーム居住者
  • 臨床医または看護師が臨床的に脆弱と判断した場合

メルク社の動向

今後2週間以内にアメリカでの緊急使用許可を申請予定といいます。

(※2021年10月11日に緊急使用許可申請を提出しました。)

メルク社は2021年末までに1000万回分製造する予定で、FDAが使用を承認すれば米政府がモルヌピラビルを12億ドル分購入すると合意しています。

また複数の国と供給について協議中とのことです。

メルク社は厚生労働省の承認が得られれば年内の国内供給を目指しているといいます。軽症から投与できるということなので、この薬の発売により医療崩壊を防いだり、在宅での治療も可能になるのではないかと考えられます。

11月4日、英国はモルヌピラビルを新型コロナウイルス感染症の軽症・中等症治療への使用を承認しました。

日本でも12月3日、メルクの日本法人MSDが厚生労働省に承認申請しました。特例承認を要望しているそうです。

さる12月24日にモルヌピラビルが日本で特例承認されました。

この薬は厚生労働省が所有し、処方が出た際には地域の対応薬局から配送するというかたちをとっています。

ラゲブリオの現状

令和4年1月15日時点で全国約1万の医療機関と薬局に約3万4000人分配送されたそうです。

また1施設に持てる在庫は原則3人分に限られています。

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