新しい片頭痛の薬、エムガルティとは。

医療・薬・健康

片頭痛に悩まされている方はけっこう多いと思います。国内では成人の約8.4%が片頭痛にかかっているといわれています。そして約800万人~900万人の患者さんがいると推計されています。また男性よりも圧倒的に女性が多い疾患となっています。

ちなみに「片頭痛」と「偏頭痛」、正しいのは「片頭痛」だそうです。

そんな片頭痛の治療に2021年4月に新しい選択肢が追加されました。

それがエムガルティです。

エムガルティは月1回の注射薬で片頭痛発作を予防するお薬。

月1回という簡便さから治療の一助となりそうです。

それではまずは、片頭痛と既存の薬剤について書いた後に、エムガルティの特徴について触れたいと思います。

片頭痛とは

まずは片頭痛とは、その定義について。

片頭痛は、脈に合わせてズキン、ズキンと脈打つ感じ(拍動性のある)の痛みが頭の片側や両側、後頭部など部分的に激しく発作的に起こるもののことをいいます。

多い人で週に1度、月に1~2度の周期で痛みが出るのが特徴です。また痛みは4~72時間持続します。痛み出すと体を動かすこともできなくなることもあるなど日常生活にかなり影響が出ます。

診断に関しては、脳の検査というとCTやMRIですが、片頭痛ではそれらの検査では異常はみられません。片頭痛は脳の異常ではなく脳の視床下部が刺激されることで血管の拡張や顔の感覚を脳に伝える三叉神経に炎症が起こっているという説がありますが原因がはっきりしていないのが現状です。

また寝不足、寝すぎ、ストレス、飲酒・喫煙なども片頭痛を誘発すると言われています。

初診でお医者さんにいくとまずはCTやMRIで大きな脳の病気ではないことを確認してから、片頭痛の診断をつけるのが一般的です。あとは問診(国際頭痛学会の診断基準にそって)することで片頭痛かどうかを判断します。

また頭痛が起こる前に前兆があるものとないものの2つの分類があり、それぞれ、前兆があるものが約2、3割で前兆のないものが7,8割といわれています。

多い前著としては

  • 目の前がチカチカする
  • ギザギザの光が見える

などがあります。この前兆が1時間ぐらい続き、その後激しい痛みが訪れます。

現在までの片頭痛治療薬

現在の片頭痛に対する治療薬は、以下のものがあります。

  • 痛み止め
  • トリプタン系
  • エルゴタミン系
  • β遮断薬
  • カルシウム拮抗薬
  • バルプロ酸

痛み止め

主な薬剤:カロナール、アセトアミノフェン、ポンタール、ロキソニン、ボルタレンなど。

一般的によく聞く痛み止め、解熱鎮痛剤というものです。痛みが出たときに服用します。

トリプタン系

主な薬剤:イミグラン、レルパックス、マクサルト、アマージ

片頭痛に最もよく使われているのがこのトリプタン系の薬。

前述の痛み止めと同じく頭痛が出た際に服用する。作用機序は違いますがこちらも痛み止めです。予防的に使用することはできない薬剤です。

作用機序は、セロトニン神経系に作用する薬です。脳血管の平滑筋、硬膜血管周囲三叉神経、三叉神経核のセロトニン受容体に作用して、硬膜血管の収縮、神経ペプチドの放出抑制、三叉神経核の痛みの伝達抑制などの作用で片頭痛の痛みを抑えます。

つまり脳の働きに特化した片頭痛のために設計されたお薬なのです。

現状の治療の問題点としては、予防薬の服薬継続が難しいという点です。ある調査では片頭痛の予防薬と急性期治療薬を2か月以内で中止した患者さんの割合が80%以上にのぼるという結果も出ています。

では新薬エムガルティはどうなのか。

エルゴタミン系

主な薬剤:クリアミンA、クリアミンS

古くからある片頭痛のお薬です。

こちらも片頭痛の痛みを抑える薬。このクリアミンは主成分のエルゴタミンが頭痛の発作時に拡張する血管を収縮させます。またカフェインとピリン系の鎮痛薬も含まれています。カフェインはエルゴタミンの血管収縮作用を補強する役目を持っています。

痛みが出てすぐ服用することが望ましく、痛みがひどくなってからだとあまり効果が期待できません。

最近はトリプタン系の処方が多く、エルゴタミン系は処方数が少なくなってきています。

β遮断薬

主な薬剤:インデラル、セロケン、テノーミンなど

こちらは前述の薬剤とは違い、予防を目的として使います。なので痛みが出てから飲んでも効果はありません。もともとは血圧を下げたり、不整脈や心不全の治療などに使われる薬です。

中でもインデラルは片頭痛予防の適応症を持っている唯一の薬剤で、多くの臨床試験が行われており片頭痛の発作を焼く44%減少させるという結果も出ています。

カルシウム拮抗薬

主な薬剤:ミグシス

こちらも予防を目的として使うお薬です。

片頭痛の発生初期におこる脳の血管の収縮を抑えることで効果を発揮します。

血管壁の細胞の中にカルシウムが入ると血管を収縮させますが、このお薬はカルシウムが細胞内に入るのを防ぎます。

カルシウム拮抗薬というと血圧を下げる薬というイメージがありますが、ミグシスは脳の血管に選択的に作用するので血圧降下にはほとんど作用しません。

バルプロ酸

主な薬剤:デパケン、セレニカ

こちらも片頭痛の予防を目的として使うお薬です。

もともとはてんかんの薬ですが、片頭痛の予防効果が認められ適応追加となっています。

脳の神経をしずめることで、脳血管の異常な運動を抑えることで片頭痛の予防効果を発揮します。

新薬、エムガルティとは

今回新しく発売されるエムガルティは、注射剤(皮下注120mg)です。

正式名称は、

エムガルティ皮下注120mg オートインジェクター

エムガルティ皮下注120mg シリンジ

一般名:ガルカネズマブ(遺伝子組換え)注射液

効能・効果:片頭痛の発症抑制

使い方:初回に2本(240mg)、2か月目以降から1か月毎に1本注射します。

このエムガルティはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の働きを抑えることで片頭痛発作を予防します。

カルシトニン遺伝子関連ペプチド(以下CGRP)についてですが、CGRPは、三叉神経節や硬膜上の三叉神経抹消に存在する神経ペプチドで、過剰に発現すると血管拡張作用や神経原生炎症を起こすことで、片頭痛を引き起こすといわれています。

※ペプチド・・・アミノ酸が2個以上50個未満結合した状態のこと。(50個以上結合すると、たんぱく質になります。

そこでエムガルティはこのCGRPに結合し、その働きを抑制することで片頭痛を予防するのです。

このエムガルティは1回投与することで1か月間効果が持続します。初回に通常の2倍量を投与することで速やかに血中濃度を定常状態にし、投与後早い段階で効果が出るよう設計されています。実際にプラセボと比較した試験では投与1週目から効果が出たことが証明されています。

片頭痛日数の変化についてですが、エムガルティを投与することで1か月あたり3~4日片頭痛が起こる日数を減少させるという試験結果が出ています。

副作用については、主なものは注射部位疼痛、注射部位反応、注射部位紅斑です。

通院しなければいけないという面倒さはあるものの、月一度の注射であれば既存薬よりも治療継続が期待できるのではないだろうか。

薬剤負担について

このほど薬価収載となり、めでたく発売もされました。その薬価が、

  • オートインジェクター 120mg 1ml 1キット  45,165円
  • シリンジ       120mg 1ml 1筒    44,940円

となりました。見てお分かりのように、かなり高額な薬価が設定されました。

実際の患者さん負担で考えると、下の表のようになります。

回/負担割合     3割       1割
初回(2本)  約27,000円     約9,000円
2回目以降   約13,500円     約4,500円
エムガルティを処方された際の患者さんの薬剤負担額

※この金額の他に初診料や再診料など追加されますので実際に窓口で支払う金額はこれ以上に高くなります。

処方できる医療機関および患者さんに条件がある

このエムガルティですが、冒頭からも書いている通り新規作用機序のお薬。

今回このエムガルティは新規作用機序の製品であることから厚労省が定める最適使用推進ガイドラインの対象薬剤となりました。この「最適使用推進ガイドライン」で対象となるのは、安全性・有効性に関する情報が十分蓄積するまでの間、投与が適切と考えられる患者の要件やその医薬品を使用する上で必要な医療機関の要件などを定めることが適切と考えられる医薬品です。

エムガルティに関しての具体的な要件ですが、医師の要件がこちら。

・片頭痛の病態、経過と予後、診断、治療(参考:慢性頭痛の診療ガイドライン2013 5))を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)が本剤に関する治療の責任者として配置されていること。

<医師要件>
以下の基準を満たすこと。

  • 医師免許取得後 2 年の初期研修を修了した後に、頭痛を呈する疾患の診療に5 年以上の臨床経験を有していること。
  • 本剤の効果判定を定期的に行った上で、投与継続の是非についての判断を適切に行うことができること。
  • 頭痛を呈する疾患の診療に関連する以下の学会の専門医の認定を有していること。
  • 日本神経学会
  • 日本頭痛学会
  • 日本内科学会(総合内科専門医)
  • 日本脳神経外科学会
  • 二次性頭痛との鑑別のために MRI 等による検査が必要と判断した場合、当該施設又は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、必要時に適切な対応ができる体制が整っていること。

異常が医師の使用要件となります。都会などであれば町のお医者さんでも上記の学会の専門医を有する医師は何人もおられるかもしれませんが、地方ですとあまりいないのが現状のようです。

また投与対象となる患者さんについても以下の要件がついています。

【患者選択について】
投与の要否の判断にあたっては、以下の 1.~4.のすべてを満たす患者であることを確
認する。

  1. 国際頭痛分類(ICHD 第 3 版)を参考に十分な診療を実施し、前兆のある又は前
    兆のない片頭痛の発作が月に複数回以上発現している、又は慢性片頭痛であるこ
    とが確認されている。
  2. 本剤の投与開始前 3 カ月以上において、1 カ月あたりの MHD (片頭痛または片頭痛の疑いが起こった日数)が平均 4 日以上である。
  3. 睡眠、食生活の指導、適正体重の維持、ストレスマネジメント等の非薬物療法及
    び片頭痛発作の急性期治療等を既に実施している患者であり、それらの治療を適
    切に行っても日常生活に支障をきたしている。
  4. 本邦で既承認の片頭痛発作の発症抑制薬(プロプラノロール塩酸塩、バルプロ酸
    ナトリウム、ロメリジン塩酸塩等)のいずれかが、下記①~③のうちの 1 つ以上
    の理由によって使用又は継続できない。
    ① 効果が十分に得られない
    ② 忍容性が低い
    ③ 禁忌、又は副作用等の観点から安全性への強い懸念がある

ですので、エムガルティを使用可能かどうかはご自身が通う医療機関の医師に確認する必要があるかと思います。

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